串に込められた物語：焼き鳥の歴史と文化

香ばしい匂いと食欲をそそる照り。老若男女問わず愛される焼き鳥は、日本の食文化に深く根付いています。その歴史を紐解くと、意外なルーツが見えてきます。

焼き鳥の原型は、平安時代にまで遡ると言われています。当時は雉などの野鳥を焼いて食べる習慣がありましたが、家畜の食用が禁じられていたため、鶏肉が一般的に食べられるようになったのは江戸時代以降のことです。

江戸時代になると、屋台文化の発展とともに焼き鳥は大衆食として広まります。当初は鶏肉だけでなく、内臓や他の肉も串焼きにされていました。特に、ネギとマグロを交互に刺した「ねぎま」は、もともとマグロの代わりに鶏肉を使うようになったのが現在のねぎまのルーツという説があります。

明治時代に入ると、養鶏技術の発展により鶏肉が手に入りやすくなり、焼き鳥専門店も登場し始めます。関東大震災後や終戦後の物資不足の時代には、安価な内臓などを活用した焼き鳥が人々の胃袋を満たしました。

「焼き鳥」と「やきとり」の違いにも注目してみましょう。「焼き鳥」は鶏肉のみを使った串焼きを指すことが多いのに対し、「やきとり」は鶏肉以外の豚肉や内臓などを使った串焼きも含む広い意味で使われます。これは、地域によって串焼き文化が多様に発展してきたことを示しています。例えば、北海道の豚精肉（豚串）や、福岡のダルム（豚の腸）などは、地域色豊かな「やきとり」と言えるでしょう。

現代では、様々な部位の焼き鳥が楽しめるだけでなく、地鶏や備長炭など素材や焼き方にもこだわった高級店も増えています。単なる屋台料理から、奥深い食文化へと進化した焼き鳥。その串には、日本の食の歴史と文化が詰まっているのです。